日本語の読書案内
はてなキーワードでも『形而上学レッスン』の画像が入ったみたいでなにより。
さてさて、前回読書案内のことをちょっと書いたが、ひとつ思い出したことがある。最初の頃の構想では、最後にあとがきがわりの文献案内をつけようと思っていた*1。けっきょく本文にかかりっきりで、候補の本をちゃんとチェックできなかったのでボツにしたんだけれど、ここならいい加減なことを書くのも許されるだろうから、ちょっとやってみる。
〈第1章:人の同一性に関して〉
「人の」というと耳慣れないかもしれないが、これは「人格の同一性(personal identity)」のこと。訳註でも書いたけれど、「人格」ということばにはいろんな手垢がついてしまっているので、ここで「person」を「人格」と訳すのは、もはやほとんど誤訳と言っていいほどだと思う*2。
もっとも、「人の〜」がいい訳かと言われれば、それも微妙なところ。『四次元主義の哲学』では、「人」は「person」の訳語にしてしまって、それ以外のケース(「世の中には悪いひとがいる」とか)では「ひと」とひらがなにするという、ちょっとややこしいことをしていた。あと、「人物の〜」という訳し方もある*3。個人的には「人間の〜」がニュアンス的にだいぶ近いような気がするんだけれど、どうでしょう。
さて、読書案内としては、とりあえずパーフィットの『理由と人格―非人格性の倫理へ』は外せないかなあ。分厚い上に高いのでおすすめとは言いがたいんだけれど。あと、やっぱり、『四次元主義の哲学―持続と時間の存在論 (現代哲学への招待―Great Works)』。第五章は人の同一性についての章です。
翻訳以外でも人の同一性を扱ってるものは多いけれど、だいたいどれもほかの問題(時間とか)がメインになってるんだよね。でもひとつだけ、ほかの章で取り上げなさそうなのをあげておこう。『心と知識』は心の哲学の本だけれど、第IV部の第二章のタイトルは、まさに人の同一性(「人物の〜」になってるけど)。つまり、人の同一性は単なるパズルではなく、行為者(agent)や心の持ち主(主体)や自己(self)、そして〈私〉と密接に関係しているというわけ。人の同一性だけでなく、形而上学の問題はだいたいどれも、こんなふうにほかの哲学的問題とからんでるんだよね。
思ったより長くなりそうなので、第2章以降は次回に。