出版祝いの極私的後書き・その1

ようやく仕事が一段落着いたので、やっぱり四次元主義の哲学―持続と時間の存在論 (現代哲学への招待―Great Works)について書こうと思う(ついでに新しいカテゴリーを作ってみた)。

まず、購入してくださった方々(たとえばこことかこことかこことか。ここは出版社からの献本か)に訳者の一人として感謝します。ありがとうございました。ちなみに、Amazonのランキングが上下してるので(だいぶ低いレベルだけれど)、ちょこちょこ売れてるようです。なので、この様子なら全部で50冊ぐらいは売れるでしょう。できれば、周囲の人々に「分析的形而上学の本なんて自分には難しいかと思ったけれど、案外すらすら読めるもんだね」なんてウソをついて買わせて下さい(笑)。

さて、この本を買った人のために、各章のガイドでも書いてみよう。
序論:本書の方法論ないしメタ存在論(metaontology)がテーマ。解説でも述べられているように無理に読む必要なし。というか、ここが面白いと思った人には他の章がつまらなく感じるんじゃないだろうか。

第1章:本書で主張される四次元主義をおおまかに説明する章。ここで紹介されるパズルが面白そうだと思ったあなた、本書はあなたのための本です。頑張って読み通して下さい。

第2章:現在主義(presentism)にはいろいろ問題があるよ、という章。時制論理に頼っても解決されない問題が残るし、真理メーカーや特殊相対論と折り合うようにするのはもっと厄介。だから無理せず永久主義(eternalism)で行きましょう、という内容。それでも現在主義を擁護したいと思ったあなた、同士と呼ばせて下さい。でも、本書で現在主義について論じられるのはここでおしまい。逆に、特殊相対論とかわかんねえよ〜と思ったあなた。ここは飛ばしても本書の趣旨には差し障りないので、無理せず先へとお進みください。

第3章:用語の違いに由来する混乱を避けるために、中立的な用語で四次元主義を規定する章。面白いのは、常識的な立場であるはずの三次元主義のほうがむしろ規定するのが難しいこと。あと、本書の規定からすると、四次元主義と現在主義が両立可能になること。こういう話が興味深いと思ったあなた。この辺の話は僕も学会発表したことがあって、近いうちに論文にして投稿しますので少々お待ちを。

第4章:章題通り四次元主義を擁護する章その1。1節から8節までは、四次元主義に対する従来の反論と四次元主義を擁護する従来の議論はどっちも不十分だよ、という内容で、9節でサイダー独自の議論が展開される。いろんなテクニックが使われているので、それを知らないと何が起きてるのか分からないかもしれない。逆に言えば、サイダーが何をしているのかが分かれば分かるほど、その手際に感銘を受けるはず。要はするめです。ちょっとずつでいいから何度も読んでみて下さい。

第5章:四次元主義を擁護する章その2。複数の対象が時空位置に関してぴったり一致するというパラドックスについての章。それがパラドックスかよ、と思ったあなた、これ、要は人格の同一性(personal identity)に関する議論です。つまり、ここがまさに伝統的哲学とリンクするところ。だから、いかにも哲学然とした話が好きな人にお薦めの章。ただし、ニヒリズムとメレオロジー本質主義は、倒されるべき敵(つまり中ボス)として登場しているのに注意。別に三次元主義者の多くがこのどちらかを応援しているということはない。

第6章:四次元主義に対する反論を扱う章。4節までは(比較的)すんなり読めると思うが、5節は少々手強いか。ただ、哲学的問題に対して最善候補理論(best candidate theory)で応えるのは、クワインやデイヴィッド・ルイスが採用してきた分析哲学(むしろアメリカ哲学か?)の王道。最善候補理論の適用範囲が意味から自然法則まで及ぶ、つまり、言語哲学から科学哲学までをカバーしていることが分かれば、現代哲学で形而上学が重要な位置を占めていることが実感できると思う。そういう意味で、分析的形而上学の新しい古典といえる本書のフィナーレを飾るに相応しい節。

思いのほか長くなったので、今日はこの辺で。 明日はexduranceについて書くかな。